戦後の日米貿易摩擦と米中貿易摩擦の比較的検討
第1章 日米貿易摩擦の歴史的背景
1.1 戦後日本経済の発展とアメリカ市場依存
1.2 日米貿易摩擦の主要要因
1.3 貿易摩擦が日米関係に及ぼした影響
第2章 米中貿易摩擦の形成過程
2.1 中国経済の台頭と対米輸出拡大
2.2 米中貿易不均衡の構造的要因
2.3 米中摩擦の政治的・経済的要素
第3章 貿易摩擦の対象産業の比較
3.1 自動車産業における日米摩擦
3.2 ハイテク産業を中心とした米中摩擦
3.3 農産物を巡る摩擦の比較
第4章 政策対応の比較
4.1 日本政府の対応と構造調整政策
4.2 中国政府の対応と国家資本主義的戦略
4.3 アメリカ政府の通商政策の変容
第5章 国際機関と多国間体制の役割
5.1 GATT体制下における日米摩擦調整
5.2 WTO体制下における米中摩擦調整
5.3 国際秩序への影響の比較
第6章 貿易摩擦の長期的影響と展望
6.1 日米摩擦が日本経済に与えた長期的影響
6.2 米中摩擦が世界経済に及ぼす可能性
6.3 今後の国際貿易秩序に対する示唆
第7章 参考文献一覧
1.1 戦後日本経済の発展とアメリカ市場依存
戦後日本経済の復興と成長は、アメリカ市場への依存と切り離して語ることはできない。第二次世界大戦の敗戦後、日本は経済基盤を失い、深刻な物資不足と産業の壊滅的状況に直面していた。この中で、日本の再建を支えたのがアメリカからの援助と国際秩序の枠組みであった。GHQによる占領政策のもとで、経済民主化が進められ、財閥解体や農地改革といった国内改革が実施される一方、アメリカは日本を冷戦構造における対共産圏の防波堤と位置づけ、経済的支援を積極的に展開した。特に1950年代初頭の朝鮮戦争特需は、日本の重化学工業の復活と外貨獲得を促し、その後の高度経済成長の基盤を築いた。
日本経済が成長の軌道に乗る過程で、アメリカ市場は最大の輸出先として決定的役割を果たした。1950年代後半から1960年代にかけて、日本は繊維製品や雑貨といった労働集約型産業を中心に輸出を拡大し、それらの多くがアメリカ市場に流入した。その後、産業構造の高度化が進むにつれて、自動車、家電、鉄鋼といった資本集約型・技術集約型製品が輸出の主力となり、日本経済は外需主導型の成長を遂げた。こうした発展は「輸出立国」と呼ばれる日本の経済モデルを形成し、国内の雇用や所得の増加を支える原動力となった。
しかし、アメリカ市場への依存は同時に貿易摩擦の温床となった。日本製品の急速なシェア拡大はアメリカ国内産業を圧迫し、労働市場の不安定化や産業競争力の低下を招く要因とされた。特に1970年代以降、自動車や鉄鋼といった産業で日本製品が優位に立つと、アメリカの政治家や産業界は日本を「不公正な貿易相手」とみなし、輸入制限や報復措置を強く求めるようになった。アメリカにとって日本は同盟国でありながら、経済的には競合する存在として意識されるようになり、経済関係は緊密さと摩擦の両面を併せ持つ特徴的なものとなった。
日本政府は輸出主導の成長戦略を維持しつつも、対米摩擦の激化を回避するために一定の調整を余儀なくされた。自主規制や輸入促進策、国内市場の開放といった対応は、摩擦の沈静化を狙ったものであったが、それは同時に国内産業構造の転換を迫る契機ともなった。すなわち、アメリカ市場依存は日本経済の成長を可能にしたが、その依存関係は常に緊張を孕み、戦後の日米関係を特徴づける重要な要素として作用したのである。
総じて、戦後日本経済の発展はアメリカ市場との結びつきによって大きく規定されており、輸出拡大と摩擦激化という相反する現象を伴いながら進展した。この構造的依存は後の貿易摩擦の根本要因であり、日米経済関係の力学を理解する上で欠かすことのできない視点である。
1.2 日米貿易摩擦の主要要因
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