東芝・シャープ買収事例から見る日本家電産業の衰退要因の探究
第1章 日本家電産業の発展過程
1.1 戦後復興期における家電産業の誕生
1.2 高度経済成長期と輸出拡大の進展
1.3 グローバル競争下での日本家電の黄金期
第2章 東芝の事業展開と買収に至る経緯
2.1 東芝の家電部門の成長と多角化戦略
2.2 経営不振の深刻化と構造的問題
2.3 海外資本による買収の過程と影響
第3章 シャープの事業展開と買収に至る経緯
3.1 液晶技術を軸とした成長とその限界
3.2 経営危機の顕在化と資金調達問題
3.3 鴻海精密工業による買収と再建の動向
第4章 買収事例から見る日本家電産業の課題
4.1 技術力偏重と経営戦略の不一致
4.2 国内市場依存と海外展開の遅れ
4.3 経営ガバナンスの欠如と意思決定の遅延
第5章 グローバル市場における競争構造の変化
5.1 韓国企業の台頭と価格競争の激化
5.2 中国企業の拡大と生産・販売戦略
5.3 欧米企業との比較から見る日本家電の位置付け
第6章 日本家電産業衰退の要因総合分析
6.1 技術革新と市場ニーズの乖離
6.2 経営資源配分と組織文化の問題
6.3 東芝・シャープ事例から抽出される共通要因
第7章 参考文献一覧
1.1 戦後復興期における家電産業の誕生
日本の家電産業は、戦後の復興過程において国民生活の向上と経済再建の両面を支える基幹的産業として形成された。1945年の敗戦直後、日本は深刻な物資不足とインフラの崩壊に直面しており、電気製品は贅沢品に近い存在であった。しかし、1950年代に入ると朝鮮戦争特需や米国からの技術移転を背景に工業生産が回復し、電気冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビといった「三種の神器」と呼ばれる家電製品が一般家庭に普及し始めた。これらの製品は単に生活水準を高める道具であるだけでなく、戦後の復興を象徴する存在となり、日本社会における消費文化の形成を牽引した。
当時の日本家電産業の特徴は、技術の模倣からスタートしながらも、国内市場に適合する改良を加えることで急速に競争力を高めた点にあった。例えば、冷蔵庫や洗濯機は欧米製品の導入をベースにしつつ、日本の住宅事情や電力供給の制約に合わせた小型化や省電力化が進められた。このように、限られた資源を最大限に活用し、生活環境に即した製品を開発する柔軟性が、日本企業の競争優位性を支える原点となった。また、この時期に誕生した東芝やシャープといった企業は、後に世界市場で存在感を示すことになるが、その出発点は庶民の生活改善に密着した製品開発であった。
さらに、戦後復興期における政府の産業政策も家電産業の成長を後押しした。通商産業省(現・経済産業省)は電機産業を重点産業に位置づけ、研究開発や生産拡大に向けた支援を行った。電力インフラの整備や中小企業の参入促進も進められ、産業全体の裾野が広がった。加えて、都市化の進展や所得水準の上昇が家電需要を押し上げ、家電製品は「豊かさの象徴」として一般家庭に急速に浸透した。こうして家電は生活必需品としての地位を確立し、日本の高度経済成長を牽引する重要な産業基盤となった。
総じて、戦後復興期の日本家電産業の誕生は、「生活改善の切実な需要」「技術導入と国産化の試行錯誤」「国家政策の後押し」という三つの要素が相互に作用することで実現した。東芝やシャープといった企業は、この基盤の上に成長し、後の黄金期へとつながる礎を築いたのである。
1.2 高度経済成長期と輸出拡大の進展
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