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日本企業における派遣労働の現状と課題の整理

1章 はじめに

1.1 研究の背景と目的
1.2 研究の範囲と方法
1.3 本文章の構成

2章 派遣労働の歴史的背景と制度的枠組み

2.1 日本における派遣労働制度の成立と変遷
2.2 派遣法改正と規制緩和の経緯
2.3 海外との制度比較と日本の特徴

3章 派遣労働市場の現状

3.1 派遣労働者の数的推移と市場規模
3.2 派遣労働者の属性と職種構造
3.3 派遣会社の役割と産業別分布

4章 派遣労働の企業経営への影響

4.1 コスト構造と人件費管理の観点
4.2 労務管理と組織運営への影響
4.3 正社員雇用との関係性と代替効果

5章 派遣労働者の雇用環境と課題

5.1 賃金格差と待遇の現状
5.2 キャリア形成と教育研修の機会
5.3 雇用安定性と心理的影響

6章 派遣労働の課題解決に向けた展望

6.1 制度改革の方向性と政策提言
6.2 企業の人材戦略における派遣労働の位置付け
6.3 労働市場の柔軟性と雇用の質の向上策

7章 参考文献一覧

 

1.1 研究の背景と目的

日本における派遣労働は、バブル経済崩壊後の労働市場構造の変化やグローバル経済の進展とともに急速に拡大してきた。戦後の日本企業は長らく、終身雇用や年功序列、企業内教育を基盤とする「日本型雇用慣行」によって安定した労働力確保と生産性向上を実現してきたが、1990年代以降の経済停滞や企業競争の激化は、このモデルを維持することを困難にした。特に製造業やサービス業の分野では、経営効率の向上やコスト削減の観点から非正規雇用の比率が高まり、派遣労働はその中核的存在として位置付けられるようになった。この背景には、1985年の労働者派遣法の施行を皮切りに行われた規制緩和の積み重ねがあり、派遣労働の対象職種が限定的であった時代から、幅広い職種や業種に派遣労働が広がる過程が見られる。

派遣労働の急速な普及は、企業経営における柔軟性を高め、景気変動や需要変化への迅速な対応を可能にしたが、一方で派遣労働者に対する雇用の安定性や待遇面の不平等、キャリア形成の制約などの課題を顕在化させた。特に、派遣労働者の賃金水準は正社員と比較して低い傾向があり、ボーナスや福利厚生などの面でも格差が存在している。さらに、労働契約の短期性や派遣先の業務指示体制の下で働くという特徴が、職場での人間関係形成やスキル蓄積に影響を及ぼし、結果として長期的なキャリア形成を困難にする要因となっている。このような問題は、派遣労働をめぐる法制度や社会的認識の在り方が依然として過渡期にあることを示しており、派遣労働を労働市場の一つの仕組みとして再評価する必要性が高まっている。

本研究は、日本企業における派遣労働の現状を体系的に整理し、その歴史的経緯、制度的背景、雇用環境、そして企業経営における位置付けを多角的に分析することを目的としている。単に派遣労働を一時的・補助的な雇用形態として捉えるのではなく、グローバル化やデジタル化といった外部環境の変化の中で、日本の労働市場における派遣労働の役割がどのように変容してきたのかを明らかにすることが重要である。また、派遣労働者の就業実態を検討することで、待遇改善やキャリア形成支援の観点から必要となる政策的・制度的対応策を提示し、企業経営の観点からも派遣労働を有効に活用するための戦略を考察する。

さらに、派遣労働の議論は非正規雇用全般の課題と密接に関連しており、労働市場の流動性や雇用の質の問題を浮き彫りにする指標の一つである。本研究では、統計データや既存研究を参照しながら派遣労働市場の動向を俯瞰し、制度的背景の変遷とともに現代的課題を体系化する。その上で、派遣労働に対する批判的視点と肯定的評価の双方を踏まえ、企業経営・政策立案・労働者保護の各側面から総合的な分析を行うことを目指す。このアプローチにより、日本企業における派遣労働の現状を理解し、将来的な雇用制度や労働市場の設計に向けた具体的な知見を提供することが本研究の最終的な目的である。


 

1.2 研究の範囲と方法

本研究は、日本企業における派遣労働の現状と課題を体系的に把握し、制度的背景、雇用環境、企業経営の視点を踏まえた総合的な分析を行うことを目的としている。研究の範囲は、派遣労働制度の法的基盤から派遣労働者の実態、さらに企業の経営戦略や人材活用方針に至るまで多岐にわたり、マクロレベルとミクロレベル双方の観点を取り入れている。具体的には、まず1985年に施行された労働者派遣法から現在までの制度変遷を整理し、法改正や政策方針の変化が派遣労働市場に与えた影響を検証する。これに加えて、派遣労働者の職種構造や年齢層、雇用形態の多様化といった特徴を統計データに基づいて分析し、派遣労働がどのような産業や職場環境で広がりを見せているのかを明らかにする。

研究対象の時間的範囲は、派遣労働が法的に制度化された1985年から2020年代までを想定し、この期間における日本の経済情勢や労働市場の動向と関連付けながら分析を行う。また、研究の空間的範囲は日本国内の企業や派遣労働市場に限定し、海外制度との比較を補足的に取り入れることで、日本特有の制度や文化的背景を明確化する。産業別の比較においては、派遣労働が特に多用される製造業やサービス業、IT関連業界を中心に取り上げ、派遣労働が企業経営の柔軟性やコスト構造に与える影響を具体的に示す。さらに、派遣会社の役割や派遣労働者と企業の関係性にも焦点を当て、派遣労働の仕組みがどのように成り立ち、変化してきたかを包括的に検証する。

研究方法としては、既存の学術論文や政策レポート、労働市場に関する統計資料、新聞・雑誌記事などの二次資料分析を中心とする。具体的には、総務省統計局や厚生労働省が発表する労働力調査、労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究報告などを活用し、派遣労働者数の推移や属性の変化を定量的に把握する。同時に、制度改正の経緯や派遣法に関する議論を追うことで、法制度と労働市場構造の関係を明らかにする。また、新聞や業界誌に掲載された事例や派遣労働者の声を参考にすることで、統計データでは見えにくい現場の課題を質的に補足する。このように、定量分析と定性分析を併用することで、派遣労働の実態を多角的に検証する。

さらに、比較の視点を導入し、欧米諸国やアジア諸国の派遣労働制度との違いを簡潔に整理することで、日本特有の労働市場の特徴や政策的課題を浮き彫りにする。特に、欧州における派遣労働の規制や待遇改善の取り組み、アジア諸国での柔軟な雇用形態の導入などを参照し、日本企業が直面する構造的な問題や改善の方向性を示すことを目指す。また、企業経営の視点からは、派遣労働がどのように人件費管理や組織運営に影響しているのかを明らかにし、経営戦略上の位置付けを考察する。

総合的に、本研究は制度面・企業面・労働者面の三つの側面を軸に派遣労働を分析し、各視点の相互作用を理解することを重視している。制度設計の変遷や企業経営の戦略、労働者個々の就業経験の積み重ねが派遣労働市場全体の動向にどのように影響を与えてきたのかを検証することで、現状の課題を包括的に整理し、将来的な労働政策や雇用制度設計に資する知見を提示することが本研究の方法論的意義である。


 

1.3 本文章の構成
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