資生堂の事例に基づくマルチブランド戦略の探究
はじめに
第1章 マルチブランド戦略の理論的枠組み
1.1 マルチブランド戦略の定義と基本概念
1.2 マルチブランド戦略とシングルブランド戦略の比較
1.3 ブランドポートフォリオ理論の展開
第2章 資生堂におけるブランド構造の特徴
2.1 資生堂のブランド階層と市場区分
2.2 国内市場と国際市場におけるブランド展開
2.3 高級ブランドとマスマーケットブランドの両立
第3章 資生堂のブランド戦略の歴史的変遷
3.1 戦後期から高度経済成長期にかけてのブランド形成
3.2 グローバル展開とブランド多角化の進展
3.3 デジタル時代におけるブランド戦略の転換
第4章 マルチブランド戦略の実践と課題
4.1 ブランド間競合と cannibalization の問題
4.2 ブランド統合と再編の実践事例
4.3 消費者認識におけるブランドアイデンティティの管理
第5章 資生堂のグローバル戦略とマルチブランドの役割
5.1 欧米市場におけるブランド戦略
5.2 アジア市場におけるブランド戦略
5.3 グローバルブランドとローカルブランドの相互作用
第6章 マルチブランド戦略の効果と今後の展望
6.1 売上・市場シェアに対する影響
6.2 ブランド価値と企業評価への影響
6.3 今後の課題と戦略的方向性
第7章 参考文献一覧
1.1 マルチブランド戦略の定義と基本概念
マルチブランド戦略とは、一つの企業が複数のブランドを同時に展開し、それぞれ異なる市場セグメントや消費者層に対応することを目的とする経営戦略である。この戦略は、単一ブランドで多様な顧客層をカバーするのではなく、ブランドごとに明確な役割やポジショニングを与えることで、より精緻な市場対応を可能にする点に特徴がある。すなわち、製品カテゴリーや価格帯、流通チャネル、さらには広告メッセージに至るまで、各ブランドが独自の個性とターゲットを持ち、相互に補完関係を築くことによって全体の市場シェア拡大を図るのである。
マルチブランド戦略の理論的基盤は、ブランドポートフォリオ管理の発想にある。企業は異なるブランドを一種の「投資資産」として扱い、それぞれのブランドが持つ市場での強みやポジションを組み合わせることで、経営リスクを分散しながら収益性を高めることができる。例えば、高級化粧品ブランドは高い利益率を確保できる一方で景気変動に左右されやすく、大衆向けブランドは安定した需要を持つものの利益率は低い傾向がある。これらを併せ持つことにより、企業全体として安定性と成長性を同時に追求できる。また、新規市場参入時には既存ブランドのイメージを損なうことなく、別ブランドを立ち上げることで新たな消費者層を獲得する柔軟性も備わる。
さらに、マルチブランド戦略は消費者心理との関わりにおいても重要である。消費者は自己の価値観やライフスタイルに合致するブランドを選好する傾向を持つため、単一ブランドでは多様なニーズを完全に満たすことは難しい。そこで企業はブランドごとに異なるストーリーやアイデンティティを設計し、消費者にとっての選択肢を拡大することによってブランド全体の浸透度を高めていく。たとえば、若年層向けにはトレンドを反映した革新的なブランド、中高年層向けには信頼性と品質を強調したブランドといった具合に、明確な差別化を行うことで、同じ企業でありながら多様な市場に同時に訴求することが可能となる。
しかしながら、この戦略には管理上の複雑さが伴う。ブランド間の競合、すなわちカニバリゼーションの発生や、企業全体としてのメッセージの一貫性をどのように維持するかといった課題が常に存在する。そのため、マルチブランド戦略は単なるブランド数の増加を意味するのではなく、各ブランドの役割分担を緻密に設計し、ブランドポートフォリオ全体を統合的にマネジメントする高度な戦略であるといえる。資生堂のようなグローバル企業においては、この戦略は市場の多様性と変化に柔軟に対応するための基盤となり、企業の競争力を左右する中心的な要素として機能しているのである。
1.2 マルチブランド戦略とシングルブランド戦略の比較
なお、以下のページで卒論制作に役に立つ論文をダウンロードすることができます。
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