市場販売と危機管理から見る日本自動車産業の課題把握
はじめに
1.1 研究の背景と目的
1.2 研究の意義と方法論
1.3 先行研究の整理と課題
日本自動車産業の発展経緯
2.1 戦後復興期から高度経済成長期の自動車産業
2.2 バブル期以降の国内市場変動
2.3 グローバル市場への進出と競争環境
市場販売戦略の展開
3.1 国内市場における販売網の形成
3.2 海外市場戦略と現地生産体制
3.3 新車販売モデルと販売促進施策の変化
危機管理の歴史的分析
4.1 オイルショック期の対応と産業構造改革
4.2 リコール問題と品質管理体制の強化
4.3 自然災害や世界金融危機への対応事例
技術革新と経営戦略の変容
5.1 環境規制強化への対応と新技術開発
5.2 電動化・自動運転技術と競争構造の変化
5.3 サプライチェーン戦略と危機対応力の強化
日本自動車産業の現状課題と展望
6.1 国内市場縮小と需要変化への適応
6.2 海外市場競争力の再評価
6.3 産業構造再編と未来志向の経営モデル
参考文献一覧
1.1 研究の背景と目的
日本の自動車産業は、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて国民経済を牽引する重要な産業として発展してきた。国内市場の拡大や輸出主導型の経済政策に支えられ、トヨタや日産をはじめとする主要メーカーは世界市場での競争力を確立した。自動車産業は製造業の中でも裾野が広く、部品産業や物流、販売網、金融サービスなど多様な関連産業を形成し、日本経済全体に波及効果をもたらしたことから、国内総生産や雇用におけるその重要性は極めて高い。しかし、21世紀に入ると自動車市場を取り巻く環境は急激に変化し、国内市場の成熟化や少子高齢化、環境問題の深刻化、さらには電動化・自動運転といった技術革新の加速が業界に新たな課題を突き付けるようになった。市場競争は従来のガソリン車中心の枠組みを超えてグローバル化し、テスラや中国の新興EVメーカーの台頭が日本企業の競争力を脅かす要因となっている。
自動車産業は同時に、経済的・自然的・社会的な危機に直面してきた歴史を持つ。1970年代のオイルショックでは燃費性能向上が急務となり、1990年代にはバブル崩壊と円高によって輸出競争力が低下した。また、2010年代以降には東日本大震災やタイ洪水などの自然災害がサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしたほか、リコール問題や品質不祥事など経営危機も頻発した。これらの事例は、自動車産業における危機管理の重要性を改めて認識させ、グローバルな生産・販売ネットワークを持つ企業にとってリスクマネジメント能力が競争力の一要素となることを示した。また、新型コロナウイルス感染症の流行は、部品調達の混乱や需要変動の激化など予測困難なリスクに対応できる体制の必要性を明確化した。こうした背景から、自動車産業は市場販売戦略と危機管理体制の両輪を高度化させなければ、変化の激しい市場環境を生き抜くことが困難になっている。
本研究の目的は、日本自動車産業の市場販売戦略と危機管理体制の歴史的展開を総合的に整理し、現状の課題を多面的に明らかにすることである。まず、戦後の国内市場成長期や輸出拡大期の戦略を振り返り、販売網構築や海外進出のプロセスを検証する。また、オイルショック、リコール問題、自然災害、金融危機などの事例を通じて、危機発生時の対応策とその成果・限界を分析し、企業や業界のリスクマネジメント能力がどのように進化してきたかを探る。さらに、電動化・自動運転技術の進展やカーボンニュートラルへの移行など、現代の技術的・政策的課題を踏まえ、日本の自動車産業が直面する将来的リスクとビジネスモデルの変革可能性を考察することを目指す。これにより、市場販売戦略と危機管理を軸にした日本自動車産業の包括的理解を促し、企業経営や産業政策における今後の方向性を示唆する理論的基盤を構築することができる。歌舞伎などの伝統文化や他産業と異なり、自動車産業はグローバル市場での競争環境に直接さらされているため、変革の速度と規模の大きさを正確に把握することは、日本経済全体の成長戦略を考える上でも不可欠である。本研究はその意味で、自動車産業を経済・技術・経営の複合的な視点から分析し、現代日本産業の課題を体系的に明らかにするための出発点となる。
1.2 研究の意義と方法論
日本自動車産業の市場販売戦略と危機管理体制を同時に分析する意義は、産業の競争力と安定性の両立を解明する点にある。自動車産業は製造業の中でも特に裾野が広く、部品供給網、物流、金融、サービス業、IT産業など、複数の産業分野と密接に関係している。経済全体への波及効果が大きいことから、自動車産業の市場戦略やリスク対応力の変化は、国内経済の成長や安定に直結する重要な要素である。従来の研究は、販売戦略やグローバル市場競争の分析に重点を置いたものと、自然災害や経済危機への対応といった危機管理の側面に焦点を当てたものに分かれる傾向があった。しかし、現代の自動車産業は電動化や自動運転などの技術革新に伴う競争の激化、気候変動や地政学リスクによる不確実性の高まりといった要因に直面しており、市場販売戦略と危機管理の両者を総合的に理解する必要性が一層高まっている。両者を併せて分析することは、企業経営だけでなく産業全体の構造的課題を浮き彫りにするための重要なアプローチとなる。
この研究のもう一つの意義は、自動車産業を単なる企業レベルの戦略論として扱うのではなく、歴史的・社会的背景と結び付けて包括的に捉える点にある。戦後の高度経済成長期においては国内需要の急拡大が市場戦略の中心であり、バブル崩壊後には為替変動や経済停滞への対応が課題となった。その後のグローバル化の進展は、販売戦略を輸出志向から現地生産・現地販売体制に転換させ、危機管理の観点でもサプライチェーンの国際化や複雑化に直面する結果となった。このような歴史的流れを踏まえれば、現在の自動車産業が直面する課題や将来の方向性を考察するうえで、過去の販売戦略と危機対応の両者を一貫して分析することの重要性は明らかである。さらに、新型コロナウイルス感染症や半導体供給不足といった近年の問題は、従来の危機対応策が必ずしも通用しないことを示しており、今後の産業戦略には市場分析と危機管理の融合的視点が不可欠である。
本研究の方法論としては、歴史的資料と経済データの両面からの多角的分析を行う。まず、戦後から現代に至る主要な政策文書、企業の経営報告、業界統計資料を収集し、販売戦略や市場環境の変化を時系列的に整理する。同時に、リコール問題、自然災害、金融危機、地政学的リスクといった危機発生時の事例を抽出し、各企業や業界団体の対応策を比較・評価する。これにより、危機対応の歴史的変遷や体制強化のプロセスを明確化することができる。また、技術革新や規制の影響も重要な要因として扱い、環境規制強化や電動化戦略などが販売戦略や危機管理にどのような影響を与えてきたのかを分析する。さらに、国内外の市場構造の変化を考慮し、欧米や新興国市場の動向を比較することで、日本自動車産業の競争力と脆弱性を浮き彫りにする。こうしたアプローチは、単一の企業戦略分析では見えにくい産業全体の構造的特徴を明らかにするために有効である。
研究の実施にあたっては、定量データと定性的事例研究を組み合わせる手法を採用する。自動車販売台数や輸出台数、財務指標、リコール件数、災害被害額などのデータを用い、業界動向の定量的把握を行うと同時に、代表的な企業の事例を深掘りすることで、戦略や危機対応の具体的プロセスを明らかにする。また、産業史研究や経営学的視点に基づく文献を参照し、自動車産業をマクロ経済・産業政策・技術開発の三要素を統合した枠組みで位置付ける。これにより、本研究は自動車産業を取り巻く複雑な要因を包括的に分析し、今後の産業戦略の方向性を考察する理論的・実務的基盤を提供することを目指す。市場販売と危機管理を統合的に論じる試みは、既存研究における断片的な議論を補完し、産業全体の動態をより明確に描き出す新たな視座を提示するものである。
1.3 先行研究の整理と課題
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